マイクロ流体チップテクノロジーを応用し、標的遺伝子の絶対定量を可能にするデジタルLAMPデバイスを開発 ~次世代分子診断を革新する現場即時検査に対応可能な遺伝子絶対定量プラットフォームの創出~

 次世代半導体・センサ科学研究所 革新センシング技術創成分野 柴田隆行 教授(機械工学系)らと、城西大学 北村雅史 准教授、名古屋大学 夏原大悟 助教らの研究チームは、検量線を必要とせずに、1回の検査工程で標的遺伝子の絶対定量が可能なデジタルLAMPデバイスを開発しました。本研究では、検査精度とダイナミックレンジ(計測範囲)の向上を目的とし、マイクロ流体チップテクノロジーを応用し、反応容器に高速で液体を区画化する技術を確立しました。個々の反応容器に3個1組の受動バルブと空気ベント流路を配置することで、10,000個(1,000個×10列)の反応容器(容量1.2nL)を60s以内に区画化することに成功しました。反応容器の充填量は平均1.11 ± 0.08 nL(CV = 0.07)、充填率80%以上の容器の割合は97%であり、高速かつ高精度な区画化を達成しました。また、電動ピペットによる簡易な送液方法を適用することで、検査時のコンタミネーションを防止し、かつウイルス感染症検査における二次感染のリスクを大幅に低減しました。さらに、等温遺伝子増幅法(蛍光LAMP法)を融合したデジタルLAMPデバイスを用いて、サルモネラ菌および大麻のDNA検出を行い、検体中のDNA濃度に依存した定量結果が得られることを実証しました。加えて、遺伝子増幅反応を阻害する物質(土壌成分のフミン酸)を大麻DNAサンプルに添加した結果、従来のLAMP法では検出ができない添加量の条件下であっても、デジタルLAMPデバイスでは確実に検出ができ、阻害物質に対して堅牢であることを実証しました。本研究成果は、現場即時検査に対応可能な革新的な遺伝子絶対定量プラットフォームを提供します。

 

■書誌情報:
Riku Honda, Taketo Saruwatari, Daigo Natsuhara, Yuka Kiba, Shunya Okamoto, Moeto Nagai, Masashi Kitamura and Takayuki Shibata, A high-speed sequential liquid compartmentalization method for digital loop-mediated isothermal amplification in a microfluidic device, Lab Chip, 25, 18 (2025) 4787-4799.


DOI: https://doi.org/10.1039/D5LC00486A

 

 

図 反応容器10,000個を有するデジタルLAMPデバイス(左図:反応容器の模式図と走査型電子顕微鏡写真。個々の反応容器に3個1組の受動バルブ(S1~S3)と流路高さを意図的に減少させて流路抵抗を増大させた空気ベント流路を配置。中図:シリコーン樹脂(PDMS)製のデジタルLAMPデバイス。メイン流路に対して反応容器を交互に配置することでデバイスサイズを40 mm角とコンパクトに設計。右図:サルモネラ菌のDNA検出結果。蛍光を発色(陽性反応)した容器数を計測することで統計学的手法(ポアソン分布)に基づきDNA濃度の定量が可能。)

 

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