次世代半導体・センサ科学研究所 革新センシング技術創成分野 柴田隆行 教授(機械工学系)らと、科学警察研究所 山室匡史 博士、城西大学 北村雅史 准教授、名古屋大学 夏原大悟 助教らの研究チームは、迅速かつ信頼性の高い遺伝子検査を1回の作業工程で実現するために、マイクロ流体チップテクノロジーを応用し、4段階の対数希釈機能を備えた遺伝子診断デバイスを開発しました。本研究では、異なる流路高さを有する2液合流機構を提案し、非対称マイクロミキサと組み合わせることで、広範な流量変動条件下でも正確な希釈倍率と均一な混合を実現し、各希釈倍率でそれぞれ5個の反応容器への高精度な分注に成功しました。また、反応容器の出口側に永久阻害バルブを実装することで、液漏れを防止し、希少な検体・試薬の廃棄量を最小限に低減することが可能となりました。さらに、等温遺伝子増幅法(比色LAMP法)を用いて、精製した大麻種子DNAの検査に本デバイスを適用し、従来法と同等の検出感度が得られることを実証しました。加えて、遺伝子増幅阻害物質を多く含む粗抽出を行った大麻樹脂DNAの検査にも適用し、1回の検査工程で標的遺伝子を確実に検出することに成功しました。本デバイスは、違法薬物検査にとどまらず、ウイルス感染症、食品安全検査など、現場で求められる簡便かつ確実な遺伝子検査に対応可能な革新的な検査プラットフォームを提供します。
■書誌情報:
Akira Miyajima, Fumiya Nishimura, Daigo Natsuhara, Yuka Kiba, Shunya Okamoto, Moeto Nagai, Tadashi Yamamuro, Masashi Kitamura and Takayuki Shibata, Parallel dilution microfluidic device for enabling logarithmic concentration generation in molecular diagnostics, Lab Chip, 25, 13 (2025) 3242-3253.
DOI: https://doi.org/10.1039/D5LC00356C
図 4段階の対数希釈機能を有するマイクロ流体デバイス(左図:希釈デバイスの模式図。導入口から検体と遺伝子増幅試薬を導入するだけで、検体を自動で4段階(10~10000倍)に希釈し、反応容器に分注。右図:粗抽出した大麻樹脂の遺伝子検査の一例。10倍希釈では遺伝子増幅阻害物質の影響で偽陰性と判定。一方、適切な希釈倍率(1000倍)では正しく陽性となり標的遺伝子を確実に検出。)