害虫の生存を支えるバクテリアが無数のゲノムを持つことを発見 ~ヒトのミトコンドリア病発生機構の理解や安全な害虫防除法開発への貢献に期待~

 先端生命科学分野 中鉢 淳准教授は、米国テキサス大学のナンシー モラーン教授と共同で、植物害虫の「キジラミ」にすむ共生バクテリア「カルソネラ」が、ひとつの細胞に数千個から数万個ものゲノムを持つことを明らかにしました。研究チームはこれまでに、このバクテリアが、一部の遺伝子を宿主キジラミの核に移しながら、オルガネラと同レベルにまでゲノムを縮小してきたことを明らかにしており、今回、その極小ゲノムが細胞内にきわめて多数存在することを解明しました。
 カルソネラの極小ゲノムの複製や、ユニークな細胞分裂の機構を解明し、ゲノム分配の仕組みを知ることで、ヒトのミトコンドリア病の発生過程の理解の深化や、安全な害虫防除法の開発への貢献が期待できます。

書誌情報:
Atsushi Nakabachi and Nancy A. Moran (2022). Extreme polyploidy of Carsonella, an organelle-like bacterium with a drastically reduced genome. Microbiology Spectrum, 2022 Apr 18; e0035022. 

DOI:https://doi.org/10.1128/spectrum.00350-22

 

図A:共生バクテリア「カルソネラ」を収納する共生器官の細胞をDNA染色試薬で染めたもの。2つの共生器官細胞、2つの核と、その周りを囲む長大なヒモ状のカルソネラ細胞が観察されます。
図B:絶対定量PCRの結果。キジラミの雌雄に関わらず、カルソネラのゲノムが、共生器官細胞の核ゲノムの約4,000倍の数だけ存在することを示します。共生器官細胞が16倍体(ひとつの核にゲノムを16個収納している)であるため、共生器官細胞ひとつあたりにカルソネラゲノムが約60,000個含まれることを意味します。図Aのように、共生器官細胞には、長大なカルソネラ細胞がごく少数しか含まれないケースが多いため、カルソネラは個々の細胞に、数千個から数万個のゲノムを持ちうることが分かります。

 

 

研究発表  2022.04.22