脳への遺伝子スタンプ ~細い剣山型ワイヤーNTW による DNA スタンプで遺伝子組み換え~

 先端生命科学分野 沼野利佳教授の研究チームは、革新センシング技術創成分野 河野剛士教授の研究チームと共同で、細い剣山型ワイヤー(Nanoscale-tipped wire, NTW)アレイデバイスを開発し、DNA などの遺伝物質を生きたマウスの組織にスタンプのように簡単、かつ効率的に導入し、遺伝子を組み換えることに成功しました。NTWアレイデバイス は、先端径が 100 nm 以下とマウスの神経細胞より小さく、長さ200 µm のナノワイヤーが 400 本搭載されています。このナノワイヤーは、簡単に脳などの組織の深部に刺入できますが、非常に侵襲性は低く組織にやさしいアプローチが可能です。今回、マウスの24 時間リズム(概日リズム)を支配している中枢器官のペースメーカー神経を狙って、その機能を抑制する時計遺伝子のshRNA 分子を遺伝子スタンプしたところ、概日リズムが弱まることがわかりました。抑制分子がスタンプされた細胞は、蛍光マーカーが光るようにしたので、光った細胞の中に、リズムを発振するために主導的な役目を果たすペースメーカー神経細胞が存在すると考えられます。この NTW アレイデバイスによる DNA スタンプ技術は、生体にやさしく、これまでになく簡単に細胞の機能を調べたり、変えたりすることができ、これまでにない新たな脳機能解明の研究に役立ちます。

 

書誌情報:
 Rika Numano, Akihiro Goryu, Yoshihiro Kubota, Hirohito Sawahata, Shota Yamagiwa, Minako Matsuo, Tadahiro Iimura, Hajime Tei, Makoto Ishida, and Takeshi Kawano (2022).Nanoscale-tipped wire array injections transfers DNA directly into brain cells ex vivo and in vivo.FEBS Open Bio,2022, in press

DOI:https://doi.org/10.1002/2211-5463.13377

 

 

 

   NTW による緑蛍光 GFP コード DNA を細胞内にDNA スタンプ導入するイメージ

 

 (A,B) NTW アレイデバイスを用いてマウスの脳へ導入する概略図と写真 
    (C) DNA スタンプ後の脳の蛍光シグナルの 3D 立体画像

(A)蛍光マーカーとともに時計遺伝子のshRNAを遺伝子スタンプした
概日リズム中枢器官の写真。
(B) shRNAと(C)溶媒のみを遺伝子スタンプした中枢器官の概日リズム。

 

研究発表  2022.03.29